LOEWEやFENDIなどのラグジュアリーブランドは日本発IPコラボをどうブランドエクイティに変えているのか

概要:なぜ今、ラグジュアリー×日本発IPなのか
ラグジュアリーブランド×日本発IPは、単なる「話題づくり」の道具ではなくなっている。2024年のパーソナルラグジュアリー市場は世界全体でフラット〜わずかにマイナスで、BAIN & COMPANYの推計では名目ベースで前年からおよそ2%縮小。欧米では価格上昇とマクロの不確実性が重なり、若年・アスピレーショナル層の購入意向が鈍化している。一方でアジアは二極化していて、中国本土が揺れる一方、日本と一部の東南アジアはインバウンドと都市開発を追い風に比較的底堅い。こうした前提の中で、各ブランドはIPコラボを新しい 「入口」として捉え直し、若い顧客や距離のあるファンと出会う仕組みを再設計している。
その流れの中で際立っているのがLOEWEだ。 Lyst Indexでは2024年Q2に「世界で最もホットなブランド」1位を獲得し、同四半期の検索量は3か月で約29%増という伸びを記録した。その後2025年Q1にも再び1位に返り咲いている。Vogue Business Index(2024年後半)でもLOEWEは初めてトップ10入りし、FENDIもトップ10へ再浮上した。LOEWEは2023年Q2にも前年から大きく順位を上げて初の首位を獲得しており、数年単位でブランドの熱量を維持してきたブランドと言える。
本稿では、LOEWEやFENDIを含むいくつかの事例を通じて、日本発IPの「熱」をブランドエクイティへ変えていくプロセスを、次の四つの軸で整理する。 ① ブランドとIPの記号をどう重ねるかというデザイン、② どのタッチポイントを表現の舞台にするか、③ 前夜上映・章立て・常設化など時間の設計、④ 短期売上ではなく文化的資本の積み上げや自前IP化まで含めた長期志向。それぞれの軸に対して、どのブランドがどんな打ち手を取っているかを見ていく。
LOEWE × Studio Ghibli(2021–):クラフトマンシップ三部作
LOEWEは「となりのトトロ」(2020)、「千と千尋の神隠し」(2022)、「ハウルの動く城」(2023)という三つのタイトルでスタジオジブリとのコラボを連続展開した。単発のコラボではなく、章立てされた三部作としてブランド世界とIP世界を少しずつ重ねていった点が特徴だ。キャンペーンビジュアルはジュルゲン・テラーの写真で統一され、ジブリのキャラクターや風景を通して 「LOEWE=クラフトマンシップ」というメッセージを若い層にまで刷り込む設計になっている。
重要なのは、この三部作が一過性のコラボに終わらず、ブランドエクイティの積み上げに直結した点だ。Lyst Indexや各種業界レポートで確認できるように、ここ数年のLOEWEは認知と話題の熱量が大きく伸びたブランドの一つになっている。ジブリ三部作はその上昇カーブを支えるタッチポイントとして機能し、「ブランドの象徴」と「IPの象徴」がきれいに重なるプロダクトを通じて、ファンの記憶の中にLOEWEを刻んだと言える。



FENDI × FRGMT × Pokémon(2024–):Pokémon GOで常設タッチポイント化
このコラボの中心にあるのはPokémon GOだ。2024年1月4日から1年間、一部の店舗周辺にFENDIスポンサーのポケストップが設置され、ユーザーはアバター用の帽子やTシャツを手に入れられる構造になっている。期間限定のポップアップで一気に盛り上げて終わるのではなく、日常的に起動されるアプリの中にブランドを置き、若いユーザーの時間の中に 常駐させる設計だ。
店舗周辺のポケストップを回す行動は、そのまま実店舗への導線になる。デジタル上の接触頻度とストアでの接触密度を同時に高める構造になっていると言える。アイテム側ではPeekabooやBaguetteといったFENDIのアイコンバッグにミニリュウ/ハクリュー/カイリューを重ね、IPの視認性を利用してブランドのロゴやシルエットを再刷り込みしている。ゲーム内の訪問、ストリートでのポップアップ、実物の商品がループ構造を作り、時間をかけてブランド記憶を積んでいくケースだ。

JIMMY CHOO × 美少女戦士セーラームーン(第2弾・2024)
第2弾コレクションは伊勢丹新宿と阪急うめだでポップアップを同時展開し、ローンチの瞬間を街の中に可視化した。各アイテムには全24種類のコレクターカードが封入され、購入後にカードを集めたり交換したりする遊びが続くようになっている。Z世代が親しんでいるトレーディングカードゲームの文法を、ラグジュアリーの購買体験に持ち込んだ構造だ。
行く理由(ポップアップというイベント)→買う理由(カードが付くからほしい)→語る理由(SNSに上げたくなる)という流れを一つの線でつなぎ、初回接触の裾野を広げながら、手元に残るカードを通じてブランドを再想起させる導線になっている。IPコラボを「その場限りの盛り上がり」で終わらせず、購入後の時間まで設計している点が重要だ。

Dolce & Gabbana × 呪術廻戦(2022)
Dolce & Gabbana は、アニメ側の描き下ろしキービジュアルと渋谷の大型ポップアップ(ZeroBase Shibuya)を軸に、日本市場のファンダムの「母艦」に正面から登場した。週刊少年誌発のIPとラグジュアリーが交差する時、文脈の飛躍をどう正当化するかが難所になるが、ここでは 公式ビジュアルと街頭での大規模な体験空間をセットで提示することで、そのジャンプを受け止めている。
読者がアニメや誌面でキャラクターのスタイリングを目にし、次に渋谷のポップアップで現物を見て、そこからストアやECに向かうという順序がわかりやすい。 「ページ → 街 → 店舗」というタッチポイントの連鎖で、「知っている」から「実際に触った」へと認知のステータスを引き上げている。

Gucci × ドラえもん(2021):パターン×キャラクター×行事
Gucci は、中国の旧正月とGGモノグラムに「牛えもん」(丑年仕様のドラえもん)を重ね、季節行事×自社パターン×国民的キャラクターという三層で初回接触の理由を組み立てた。1月20日の本格ローンチから2月12日の旧正月当日まで時間軸を段階的に使い、行事のタイムライン全体を売上の波形に変換している。
コレクションへの評価は、「迎合しすぎ」という批判も含めて賛否が割れた。それでも、GGパターンの上にドラえもんが乗ったビジュアルは 「柄+キャラクターの一枚絵」として非常に読み取りやすく、ブランド記号の伝達効率を最大化していたと言える。年中行事と結びつく設計になっているため、記憶の中で毎年のように再生される可能性が高く、ブランドエクイティの蓄積にも寄与する構図だ。


Balenciaga × Hello Kitty(2019–2020)
Paris Fashion Week SS20では、Balenciaga のランウェイに男性モデルがハローキティのバッグを持って登場した。ひげを靴紐に見立てるディテールなど、キティの「かわいさ」をバレンシアガ流のサブバージョンに翻訳し、従来のジェンダーイメージをひっくり返す演出になっていた。
初出しは2019年9月、その後2020年1月27日に発売という時間設計になっており、ニュースバリューを世界中にばらまきながら、実際に買えるタイミングまで期待値を熟成させていった。高価格帯ゆえに多くの人は「見る側」にとどまり、一部の人だけが「買う側」へ進む。その距離感自体がブランドのストーリーを強化する構造になっていたと言える。


CHANEL × 約束のネバーランド(2021)
CHANEL はNEXUS HALLでの展覧会と描き下ろし短編集「miroirs」を組み合わせ、若い層に対して売らないかたちで文化投資を行った。入場すれば作品世界とブランド世界の両方に触れられるが、その場で高額な商品を買う必要はない。高価格帯のラグジュアリーにいきなり飛び込むのはまだ遠い層に対して、「まず好きになる」ための入り口をつくる動きと言える。
会期は「好きなタイミングで来てよい」スタイルの展示で、会場周辺のウィンドウディスプレイやKYOTOGRAPHIEへの接続などを通じて、都市の記憶の中にもCHANELの存在を刻んだ。短期的な売上をあえて追わず、文化イベントとしての重さを積み上げることで、将来の購入意欲や憧れを育てる戦略になっている。

Cartier「LA PANTHÈRE DE CARTIER」アニメ(2025)
Cartier は外部IPを借りず、自社アイコン「パンテール」を物語の主人公に据えたオリジナルアニメを制作した。漫画家・浦沢直樹をクリエイティブパートナーに迎え、制作はProduction I.G、ボイスキャストには高畑充希や清原果耶らを起用し、ラグジュアリーブランドの物語世界を本格的なアニメ作品として立ち上げている。
アニメは新旗艦店「カルティエ 銀座4丁目ブティック」オープン前日の2025年9月18日21時にLINE VOOMで世界初公開され、そのまま翌日のグランドオープンへ熱量を橋渡しする役割を担った。作品自体は広告というより、いつでも見返せるアーカイブとして扱われており、若い層が日常的に触れているアニメ/配信プラットフォームの文脈を使いながら、借り物ではない自前IPとしてブランド資産に組み込んでいる点が象徴的だ。

まとめ:借りた熱を自分のブランドエクイティに変えるには
若年層や新規のラグジュアリー顧客との「最初の出会い」を増やすことだけを考えるなら、IPコラボはかなり早いルートの一つだ。ただし、そこで生まれた熱が一過性のバズで終わるのか、それともブランドエクイティに変わるのかは次の四点にかかっている。
- ブランドの象徴とIPの象徴が、1枚の絵の中で無理なく重なり合うようにデザインされているか
- どのタッチポイント(ランウェイ、ポップアップ、ゲーム、展示など)を舞台に選び、どこで物語を語るか
- 夜のプレミア、章立てされた連続企画、日常アプリ内での常設露出など、時間の設計ができているか
- すぐに売ることを目的にしない文化投資や、自前IP化まで含めた長期志向を持てているか(Cartierのように)
LOEWEはこの四点を高い解像度で実行してきたブランドの一つだ。スタジオジブリとの三部作や各種コラボを通じて、若い層との接点を広げながら、「クラフトマンシップ」という自分たちのコア記号を何度も再提示してきた。その結果、Lyst Indexなど複数の指標で首位常連となり、認知と話題の熱量の伸びがブランド価値の上積みに直結している好例と言える。IPコラボを単なる借景で終わらせず、借りた熱を自分のブランドエクイティに変える設計をどこまでやり切れるかが、これからのラグジュアリーブランドの分岐点になる。
自分たちのIPコラボを設計したいなら
ラグジュアリーブランド戦略、日本発IPとのコラボ設計、日本市場での展開について具体的に考えたいなら、NextGensと直接話したほうが早い。ブランドの状況やボトルネックに合わせて、どこから手を付けるべきか一緒に組み立てる。
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